「口で呼吸をすると風邪を引きやすい」という話は耳にしたことがあるのではないでしょうか。
鼻呼吸だと鼻毛や粘膜がウィルスをブロックしてくれますが、お口はそもそも呼吸のための器官ではないのでフィルター機能がありません。口呼吸では風邪のウィルスがそのまま体内に取り込まれてしまうため、風邪を引きやすくなってしまうのです。
哺乳類の中でも口呼吸をするのは人間だけです。犬が口呼吸をしているように見えることがありますが、あれは暑いときに舌から唾液を乾燥させることで体温調整をしているだけで、呼吸自体は鼻でしています。
人間は言葉を話すことで口呼吸を習得したのだと言われています。しかし、もともとお口は消化のための器官です。そのお口を使って呼吸をすることで、様々なデメリットが生じてきてしまうのです。
体に良くないことが知られている口呼吸ですが、実は歯科的な観点から言ってもやはり望ましくないものです。
今回は歯科の観点における口呼吸のデメリットをお伝え致します。
大きく分けると、歯科的な口呼吸のデメリットには以下のようなものがあります。
①口臭・着色の原因になる
②虫歯や歯周病になりやすくなる
③歯並びが悪くなる
順番に解説していきます。
①口臭・歯の着色の原因になる
お口の中は常に唾液が出て潤っているのが正常な状態です。人は1日のうちになんと1L~1.5Lもの唾液を分泌しています。
口呼吸をしているとお口の中の唾液が乾いてしまうため、口臭や歯の着色が起こってしまいます。
普段あまり意識することのない唾液ですが、実は様々な役割を果たしてくれています。例えばお口の中を滑らかにして喋りやすくしてくれたり、消化を促したり、食べ物に混ざって飲み込みやすくしてくれたりする機能があります。
さらに唾液には抗菌作用・殺菌作用もあり、食べ物や飲み物に混ざってお口の中に入ってくる細菌を退治したり、体に悪影響を及ぼす菌の増殖を防いだりしてくれます。常に少しずつ分泌されてのどへと流れていくことで、汚れを洗い流しお口の中を清潔に保つ力もあります。
唾液がこのような働きをできるのは、濡れた状態だからこそです。乾いてしまっては本来の役割を果たせません。
口呼吸だと唾液が乾燥して役割を果たせず、雑菌が繁殖し汚れがお口に留まるため、口臭や歯の着色が起こってしまいます。
また、呼吸することでお口の中から常に風が送られてくる状態になるため、同じ口臭の程度でも口呼吸のほうが口臭が強く感じられてしまいます。
②虫歯や歯周病になりやすくなる
唾液に抗菌作用・殺菌作用があるとお伝えしましたが、口呼吸をすることで虫歯菌・歯周病菌も殺菌されず、洗い流されることもないため、お口の中にどんどん増えてしまい、虫歯や歯周病といった病気になりやすくなってしまいます。
さきほど紹介した働きのほかにも、唾液にはお口の中のpHを調整してくれる機能があります。
実は虫歯を引き起こすのは虫歯菌が出す「酸」が原因です。この酸は非常に強力で歯を溶かしてしまうため、歯がどんどん脆くなっていきます。この歯が脆くなった段階のことを「脱灰」といいます。そして最終的には歯の表面に穴をあけてしまい、虫歯を作ってしまいます。一旦虫歯になってしまったら、その歯を元通りに修復することは不可能です。歯科医院に行って、悪くなって部分を削り取り、プラスチックなどを詰めて形を整えるしかありません。ですが、まだ穴が空いていない「脱灰」の状態なら修復することが可能です。これを「再石灰化」といいます。唾液が虫歯菌の出す酸を中和してくれるため、歯は「脱灰」を止めて「再石灰化」へと向かって行ってくれます。唾液の中には歯の主成分のミネラルが含まれているため、それを使って歯を補修していくのです。
②歯並びが悪くなる
歯並びは生まれつきの顎や歯の大きさや形、指しゃぶり・頬杖などの癖によって悪くなってしまいます。そして口呼吸もまた、歯並びに悪影響を及ぼす要因の一つです。
歯はお口の中で様々な圧力をかけられることによって正しい位置に並んでいきます。舌が前歯を押し出す圧力と、それに対してお口の周りの筋肉(口輪筋)が外側から歯を締め付ける圧力、舌が上あごの骨を支える圧力と、それに対して頬が顎の骨を狭める圧力などが、常に歯にかかっているのです。
口呼吸をすると、お口の周りの筋肉(口輪筋)が外側から歯を締め付ける圧力が無くなります。このため頬に押された歯が前に飛び出して出っ歯になってしまう危険があります。また、本来上顎にくっついているはずの舌が下顎にくっつくため、上顎を支える舌の圧力が無くなります。頬からの圧力は残っているため、力のバランスが取れず、上顎が狭くなってしまいます。さらに下顎にくっついた舌は下顎の方を広げる圧力をかけるため、下顎の歯が上顎の歯よりも外側に出てしまう「不正咬合」が引き起こされてしまう恐れがあります。
このように口呼吸には様々なデメリットがあります。こうしたリスクを回避するために、口呼吸になっておられる方は鼻呼吸にシフトすることをおすすめします。
口呼吸から鼻呼吸にシフトするためにまず必要なのは、お口の周りの筋肉を鍛えることです。そのために有効な方法として、よく噛んで食べる習慣をつけることが大切です。よく噛むことは歯にとっても体全体にとってもよい影響を及ぼします。
鼻炎などで鼻呼吸が難しい場合、そちらを解決しなければなかなか鼻呼吸にシフトするのは難しいと思います。花粉症などの鼻づまりが原因で鼻呼吸が難しい場合は無理をせず、まずはマスクを着用するなどして口呼吸のデメリットを少しでも軽減しておき、症状がおさまってから鼻呼吸にシフトしていくことをお勧めします。
ただ慢性的な鼻づまりの場合、良性腫瘍ができていたり副鼻腔炎のような病気が原因となっている場合もありますので、疑いがある場合は早めに専門医の診断を受けることが望ましいです。